降り注いだの雨





何故なじられるのか分からなかった。



少しして、ようやく分かった。彼らは、悲しいのだ。

 

 

陰鬱な灰色の空に、冷えた雨の降る日だった。

人々の黒い衣もじっとりと暗く湿っている。足に引きずる影さえどこか重たそうだ。
司祭は天の零す涙とでも形容するのだろうか?気が滅入るような雨は葬儀には相応しいだろうが、列席する人にはたまったものではないだろう。目尻を拭う人のハンカチを濡らすのが涙なのか雨粒なのか、僕には分からなかった。


雨を防ぐ屋内にいても、石造りの教会の空気は湿って冷たい。結露した水に、棺がしっとりと冷えるほど。
ただ、一つだけ良いことは、その水分と冷気のおかげで、生花たちは萎びることもなく生き生きとしているということだ。陰気な列席者や、それの捧げられた死者に代わるように。

 

そしてそんな情景をただぼんやりと遠くに眺めていた僕に―――――

その叫びは、叩きつけられたのだった。

 

「なんで・・・なんでだよッ!!」

 

目を盛大に赤くした弟が、僕を見下ろして明らかに非難の混じった声で言う。頬を幾筋もの涙で濡らした弟と違って、僕の頬はただ冷たく乾いているだけだ。

 

「どうして・・・ッ?」

 

長い黒髪と同じく、濡れきった瞳で彼女が言う。呟きの中に抑えきれない悲痛な叫びが篭った声。

 

その声にも、でも僕はただ戸惑いがちに遠くに彼らを眺めるだけだった。
だって、仕方がないじゃないか。信じられないんだ、死んだなんて。

実感が湧かないんだ。

未だに。

 

けれど、おぼろげながら、なんとなく彼らの悲しみも汲み取れるようになった頃。

 

「ッ なんで死んだんだよ!バカ兄貴(・・・・)・・・ッ!!」

 

僕を見下ろす弟の双眸から、透明な水が溢れた。
周りに敷き詰められた花の香りが、強く馨る。

 

「っ・・・・!!」

湖面のように涙をたたえていた彼女の瞳からも、雫が零れた。
控えめな慟哭と共に落ちたそれが、冷えた僕の頬に降り注ぐ。いっそ熱くさえ感じるような、弟のそれと共に。

 

―――――― 降り注ぐ涙の雨。

 

それに、ようやく僕は自分の死を感じた。

一抹の寂しさとやるせなさと、嬉しさと共に。

 

 

〜fin〜

 

 

 そんなわけで、お題があまりにも気に入ってしまったため受験前に書き始めてしまったシリーズもの。ちなみに受験前にちゃんと完結しました(笑)。懐かしいなあ、大体一時間に一話を目指して書いてましたね。ちなみに、一冊のノートに延々と続きを書くということを実行し、悦に入ってもいました。いや、なんか本みたいでさ・・・ごにょごにょ(自己満(苦笑))。赤い布表紙のリングノートに書いていたので通称“赤い本の話”です。赤い革表紙の本ではありません(ロード・オブ・ザ・リング)

   そして肝心の内容をば。…ええと、ちゃんとオチたのかが気になります。“僕”が死人(幽霊)だって途中で気付かれたらある意味終わりですからね。…続きます。